高木 信一/TAKAGI Shinichi

高木 信一 教授

【研究分野】
ナノ物理・デバイス分野
【研究領域】
半導体デバイス工学、ナノデバイス物理
【研究室URL】
http://www.mosfet.k.u-tokyo.ac.jp/index.html

研究内容

これまでのSi LSIの進歩を支えてきたのは、MOSトランジスタの微細化でしたが、半導体集積回路が生まれておよそ40年経った現在、この微細化だけでは、トランジスタ性能の向上が難しくなってきています。一方、最近益々発展が目覚ましい種々の情報処理機器や端末の進歩には、今後とも素子性能を向上させていくことが不可欠と考えられおり、近いうちに10 nmの技術ノードが、2019年には7 nmの技術ノードの製造技術が導入され、トランジスタのチャネル長としても10 nm 前後の素子が大量に集積したLSIが量産される状況となっています。一方で、このような集積回路の進化を支えるムーアの法則の更なる存続は、種々の物理的限界により難しくなっており、5 nm以細の技術ノードでは、新たな素子進化のシナリオも強く求められています。ここでのキーワードは、極低消費電力デバイスの実現です。

将来デバイス実現のための3つのコンセプト

このような将来の電子デバイス実現のためには、スケーリングに加え、様々な角度からの革新の手を加える必要があります。この革新の方向性には、3つの方向性があります。”More Moore”(ムーアの法則の更なる追及)と呼ばれる、CMOSを微細化し性能を極限まで向上させる技術トレンド、CMOSとは異なる様々な異種デバイスをワンチップ上に集積化して、新しいシステムを実現しようとする”More than Moore”、CMOSとは動作原理の異なるデバイス構造を用いCMOSの物理限界を越えた性能のデバイスを実用しようとする”Beyond CMOS“です。これら新コンセプトによるデバイス極低消費電力化技術は、現代の最も重要なナノテクノロジーの筆頭であり、グローバルな研究開発の潮流の中で、新コンセプト電子デバイスの大航海時代が、今、到来しています。当研究室では、竹中充准教授と共同で、これらの3つの方向性の新しい半導体デバイスの研究、今後のMOSトランジスタの進化を可能にするブレークスルー技術の研究を、デバイス物理や材料科学の深い理解の下で、進めています。

新材料を用いたMOS型トランジスタ

現在注目しているデバイスは、高い移動度をもつGe、III-V族化合物半導体、更にこれらのチャネルをナノメータ級に薄膜にしてSi基板上に形成したGOI (Ge-On-Insulator)、III-V-OI などをチャネルに用いたMOSFETなどです。GeやIII-V族半導体は、Siよりも高い移動度をもち、高性能の次世代のMOSFETのチャネル材料(”More Moore”)として、Intelを始め、世界中の研究機関が、しのぎを削って研究開発競争を行っている研究分野です。また、これらのチャネルは、CMOSを越えた極低消費電力素子として期待されているトンネルMOSFETにも最適な材料です。トンネルMOSFETは、強誘電体をゲート絶縁膜に用いた負性ゲート容量MOSFETなどと共に、極めて低電圧で素子動作ができると期待されており、これら新原理の素子(”Beyond CMOS“)の研究にも注力しています。更に、これらの異種材料をSi基板上に形成し、高性能・高機能の全く新しい集積化システムを実現する(”More than Moore”)ことも、我々の重要な研究ターゲットの一つです。

研究上のポリシー

我々の研究室では、以上のようなデバイスを実際に試作し、その高い性能の実現を目指すと共に、その性質を決めているデバイス物理・材料物性の統一的理解や新原理デバイスを可能にする新物性の探索も併せて行っています。研究テーマの多くは、産官学連携の国家プロジェクトや民間企業との共同研究により進められており、半導体技術の最先端での研究開発の息吹、最新の研究動向などを間近で感じ取ることができます。
大学での基盤研究がテクノロジーのブレークスルーに繋がる確率は、現在、一層高まっており、皆さんの研究成果が、世の中を変えていく可能性は、益々広がっていると感じています。

学生へのメッセージ

人間の究極の喜びは、つまるところ、知的創造であると思っています。素子作りを例にとってみますと、それは自然との対話そのものであるとともに、自然の巧みを深く味わえる場です。そこにどんなに小さくても自分なりのオリジナルなアイデアや工夫を盛り込んで、実際にそれが実現できた時の喜びは例えようがありません。また、そんなに高尚なことではなく、ただ単純に、丹精をこめて作りこんだデバイスが動作したときの感動は、本当に格別なものです。一方、このようなデバイス・物性と言ったハードウェハを対象とする分野で、あるレベルに行くためには、必要不可欠な知識・概念の理解と習得、論理的思考力を身につけるための修養が、絶対に必要です。つまりしっかりと腕を磨いてもらう必要がある訳で、このような事情は、芸術(アート)の分野とよく似ていると思います。学生諸君は、アートする気持ちを心に秘めつつ、地味で着実な鍛錬にもしっかりと励んで欲しいと思います。

図1:Ge/III-V半導体をベースにしたSiプラットフォーム上のブレークスルー・デバイス技術
図2:Si上の貼り合わせIII-V-OI基板とこの基板上のMOSFETの電気特性
図3:Si上の極薄GOI構造とMOSFETの電気特性
図4:InGaAsを用いたトンネルMOSFETの断面図と電気特性