EEIS 東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻

山岸 健人 講師

本郷キャンパス

ナノ物理・デバイス
生体医工学・生体材料
電子・電気材料工学
電子デバイス・電子機器
薄膜・表面界面物性
高分子化学

ヘルスケア・医療・スポーツ応用に向けた超薄膜エレクトロニクス

厚さ数百nm~数µmの高分子超薄膜上に電極・配線・アンテナ等を実装および印刷することで電子機能化した「超薄膜エレクトロニクス」を創製し、皮膚・臓器などの柔らかい生体組織に対してシールのように貼り付けられるデバイスとしてヘルスケア・医療・スポーツ分野への応用を目指しています。

研究分野1

スポーツ応用に向けた電子ナノ絆創膏

従来のウェアラブルデバイスは、手のひらや足の裏など感覚が繊細で摩擦が生じやすい部位に装着すると運動の邪魔になってしまい、筋肉の動き(表面筋電位)を計測することは非常に困難です。そこで、導電性高分子からなるナノ薄膜(膜厚数百nm)を創製し、皮膚に直接貼り付ける生体電極「電子ナノ絆創膏」として応用してきました。電子ナノ絆創膏は、その超薄性と柔軟性から接着剤を介さずにファンデルワールス力のみを介して皮膚表面に貼付可能であり、市販の医療用ゲル電極と同等のシグナル-ノイズ比にて表面筋電位を計測可能です。さらに、装着者本来の動きを妨げず、激しい運動に対しても安定な電気的接続を可能にするウェアラブル伸縮配線を新たに開発しました。これを電子ナノ絆創膏と組み合わせることで、野球経験者の投球中の手のひらの表面筋電位を計測することに世界で初めて成功しました。本デバイスは、アスリートのみならず音楽や工芸における専門家の動作解析への応用も期待されます。また、幼児、高齢者、障がい者用ヘルスケアデバイスの電極としての応用も見込まれます。
研究分野2

光がん治療応用に向けた体内埋め込み型無線発光デバイス

病巣部分に光増感剤を集積させ、そこに光を照射することにより発生する活性酸素でがんを死滅させる光線力学療法(Photodynamic therapy: PDT)では、腫瘍と光源の位置が少しでもずれると治療効果が得られないため、生体内の臓器や組織上に長期間安定に固定できる発光デバイスの開発が望まれていました。そこで、「イガイ」が分泌する接着タンパク質を模した高分子化合物ポリドーパミンを修飾することで生体組織への接着性を大幅に向上させた高分子ナノ薄膜を新たに創製し、無線給電式LEDを組み合わせることで、体内の組織表面にシールのように貼り付けられる発光デバイスを開発しました。さらに、共同研究先の医師らと協力し、担がんモデルマウスにおける体内埋め込み型PDTシステムを世界に先駆けて実証しました。このデバイスは、移植する際に縫合を必要としないため、重要な血管や神経を巻き込む組織や構造的に脆弱な組織にも適用できます。また、従来法に比べて非常に弱い光で治療できるため、熱障害に伴う副作用の心配もありません。したがって、PDTの適用範囲を肝がんや膵がんなどの深部臓器がんへ拡げる可能性を秘めています。
研究分野3

生体組織の形状や変形に適合する超薄膜液体金属デバイス

ガリウムを主成分とする液体金属(EGaInやガリンスタン)は、常温で液体であり、低毒性でかつ高電気伝導性を有しているため、伸縮可能な電子デバイスの開発に幅広く利用されています。液体金属デバイスの作製法には、①液体金属を直接基材に印刷して封止する方法と、②フォトリソグラフィなどを用いてマイクロ流路を形成し、後から液体金属を注入する方法の主に2つの手法があります。しかし、どちらの手法も基材が100ミクロン以上と厚くなるため、デバイス全体の柔軟性や接着性に課題があります。そこで私たちは、直接インク描画(DIW)3次元印刷技術を用いて、厚さ数ミクロンのシリコーンエラストマー超薄膜上に液体金属からなる電子回路を形成する技術を新たに確立しました。具体的な例として、アンテナコイル状に印刷されたマイクロ流路にLEDを組み込み、液体金属を注入することで、無線発光デバイスを製造しました。このデバイスは曲げ・引っ張り・ねじりなどの変形に対して優れた柔軟性、伸縮性、耐久性を示しました。さらに、薄膜表面にポリドーパミンを修飾することで、生体組織に対する動きに安定した接着性を実現しました。この技術は、ヒト、動物、およびソフトロボットなどに機械的に適合する柔軟で伸縮可能な電子デバイスの設計・製造指針に新たな可能性を提供することが期待されています。
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