廣瀬 和之/HIROSE Kazuyuki

廣瀬 和之 教授

【研究分野】
ナノ物理・デバイス分野
【研究領域】
宇宙電子デバイス、半導体ナノ電子物性

研究内容

廣瀬研究室では、宇宙環境で使用できるLSIを研究しています。最先端の極微細LSIは、原子1つ1つを数えられるような小さな世界です。1nm(ナノメートル)、すなわち10億分の1メートルという単位がこの世界の尺度です。強い放射線にさらされる宇宙環境で、この極限ナノ世界に起こる物理現象を解き明かし、宇宙科学の発展に貢献する宇宙用LSIを開発することを目指しています。

超新星爆発や太陽活動により、星のかけら、すなわち宇宙放射線が大量に宇宙に飛び出します。宇宙放射線は目ではとても見えない極小粒子ですが、衛星にとって決して無視できない存在です。宇宙空間に放出された宇宙放射線はエネルギーが高いので、人工衛星を貫通してしまうのです。最先端の宇宙科学ミッションを行うために衛星には高性能なコンピュータボードが搭載されていますが、宇宙放射線はボードに実装されているLSIチップも貫通します。このLSIチップの中には、1億個ものMOSトランジスタが入っていて、そのオン・オフの組み合わせを1秒間に1億回以上変化させることで高速度計算をしています。MOSトランジスタは、主にシリコン(Si)、シリコン酸化膜(SiO2)、そして金属でできていますが、これらはナノメートル・サイズで制御された非常に小さな構造になっています。このとても小さなトランジスタから見ると宇宙放射線の影響は甚大で、宇宙放射線が当たると、トランジスタ内に大量の電子・正孔対が瞬間的に発生して過渡電流が流れ誤動作してしまうのです。さらに宇宙放射線が当たり続けると、電子・正孔対がトランジスタ内にストレスとなって貯まりトランジスタは壊れてしまいます。そのために廣瀬研究室では、放射線がLSIに与える影響を原子レベルと回路レベルで解明して、宇宙放射線に強いLSIを開発することを目指しています。この研究は宇宙科学に対してだけでなく、放射線の影響を受けやすい航空機や原子力機器や、地上に降り注ぐ微弱な放射線に対して極めて高い信頼性が要求されるハイエンドサーバーなどのIT基盤、誤動作が人命にかかわる建設機械・自動車・医療用機器や、書き換えによるストレスの抑制が求められているフラッシュメモリーなどの開発に今後大きく貢献していくものです。

大きな研究テーマは、次の2つです。

宇宙放射線が引き起こすLSI誤動作現象の解明と対策

宇宙放射線がMOSトランジスタに当たった瞬間、LSIが誤動作してしまいます。これは、数100ピコ秒というほんの一瞬の出来事ですが、コンピュータが計算を間違える原因となります。しかも、宇宙放射線が通過した後は、LSIは正常に動作します。宇宙放射線がトランジスタを通過した際の超短時間の物理現象とその結果起こるLSIの回路応答を様々な実験やシミュレーションによって解明し、対策を立てています。

宇宙放射線長期照射に伴うMOSトランジスタ劣化現象の解明

宇宙放射線がMOSトランジスタに当たると、ナノメートル・サイズで制御されたトランジスタの原子構造にストレスを与えます。長期に渡り宇宙放射線が当たり続けるとストレスが蓄積し、最後にはMOSトランジスタが壊れてしまいます。宇宙放射線が当たり続けてもびくともしない強いトランジスタを作るために、宇宙放射線照射に伴うトランジスタの劣化現象を、様々な実験や第一原理計算によってナノメートル・サイズで解明し、対策を立てています。

学生へのメッセージ

廣瀬研究室では次の4つの特徴を持った研究指導をしています。

  • 1)研究課題:極限環境での使用に耐える宇宙用LSIの研究は、地上用極微細LSIの開発にとって障害である深刻な信頼性問題を解決することに役立ちます。
  • 2)研究分野:電子物性、デバイス物理、回路技術まで横断的です。
  • 3)研究フェーズ:基礎研究から衛星搭載用半導体デバイス開発まで幅広いです。
  • 4)研究手段:実験室・大型施設実験から、第一原理計算・デバイスシミュレーションまで多彩です。

本研究室では、テクノロジーやその背後のサイエンスの研究がとても魅力に溢れていることを、実践的に体得させることが教育だと考えています。皆さんがどのようなテーマを選んでも、論文発表や学会発表を通して、社会人として生きていくために必須の好奇心と責任感とリテラシー・表現力を育てたいと思います。

図1:星のかけらが衛星搭載LSI(MOSトランジスタ)を襲う
図2:宇宙放射線が引き起こすLSI誤動作現象の解明と対策
図3:宇宙放射線長期照射に伴うMOSトランジスタ劣化現象の解明
図4:世界最高の耐放射線性能を持つLSIの開発に成功