藤田 博之/FUJITA Hiroyuki

藤田 博之 教授

【研究分野】
ナノ物理・デバイス分野
【研究領域】
マイクロナノメカトロニクス
【研究室URL】
http://www.fujita3.iis.u-tokyo.ac.jp/

研究内容

半導体プロセスで作れるものは集積回路だけではありません。いまでは、ナノ・ミクロンオーダーの微小な「機械」をシリコン基板上に製作可能です。しかも、その機械を静電気で動かしたり、ナノ構造やバイオ分子を取り込んで量子機能や生体機能を利用したりできる時代になりました。この技術をMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と言います。身近な例では、自動車の衝突センサ(エアバック始動センサ)や、ゲーム機やスマートフォンのモーション検出用の加速度センサがあります。本研究室では、MEMS技術を最先端のバイオ技術やナノテクノロジーに応用しています。ここでは最近の研究成果を4点紹介しましょう。

電子顕微鏡中で動くMEMSによるナノメカニカル特性評価

透過型電子顕微鏡の内部で、MEMSデバイスを精密に動かし、数ナノメートルの極微小構造の引っ張り試験やせん断破壊試験を行います。ナノ構造が変形し破壊する過程を、原子レベルの分解能で実時間観測できます。シリコンナノワイヤをゆっくり引っ張ると、チューインガムのように元の長さの何十倍まで伸びる現象を始めて観測しました。また、摩擦の低減によるグリーンイノベーションを目指して、様々の材料のナノ接合をせん断破壊し、摩擦の基礎過程を明らかにしています。そもそも摩擦の原因は、固体が接触した時に、その界面にある突出部がぶつかり、微小な接合がたくさん形成されて、動きを邪魔するためです。接合を破壊して可動部を滑らすために必要な力の総和が摩擦力になるので、接合ができにくく、できても小さい力で壊れる材料を探しています。この他、細くて短いナノワイヤでは、バリスティック熱伝導により極めて熱を伝えやすいことを発見しました。この研究は、科学研究費特別推進研究の支援で行っています。

アルツハイマー病の早期診断を目指すバイオMEMS

微小管とキネシンからなる生体分子モータ系は、神経細胞内で信号伝達物質を運ぶ大切な役目をしています。この生体分子モータ系をマイクロ流体チップに取り込み、物質輸送システムを再構成することでナノアクチュエータに用いる研究をしてきました。ところで、アルツハイマー病など高齢者の痴呆を引き起こす病気は、分子モータに病変が起きて物質輸送ができなくなるため、神経細胞が死ぬことが原因です。物質輸送システムを再構成したチップを用いて、アルツハイマー病に関わる病変を検出することに挑戦しています。

MEMSピンセットによる分子の捕獲と評価

MEMSで微小な道具を作り、生体分子の直接操作や特性の測定に使うため、MEMSピンセットを開発しています。我々のMEMS分子ピンセットはシリコンでできていて、2本の腕の長さは約1mm、腕の先端は曲率が数十nmに尖らしてあり、間隔は3〜20ミクロンです。静電アクチュエータで開閉し、変位センサでその動きを測れます。電気の力を借りて、水中のDNA分子を捕まえられました。捕まえた分子を空気中や真空中で顕微鏡観察したり、DNAとそれを切断する酵素の反応を経時的に測定したりできました。

気液界面で振動するMEMSバイオセンサ

マイクロ流路の壁の一部にU字型のスリットをいれて、カンチレバー型の振動子を作りバイオセンサに応用しました。気液の界面で動くため、すべて液体に浸した振動子に比べて、15倍に感度が向上します。なおスリット幅は6μmと小さく、疎水性コーティングをしてあるため流路内の液が漏れません。バイオセンサに使う場合は測定対象分子を分子認識して選択的に結合する分子を、振動子の液に触れる面にあらかじめ付加しておき、検体中の対象分子の捕獲に伴う周波数変化を計測します。表面に分子が捕獲されると、わずかに振動子の質量が増加するため共振周波数が減少します。糖尿病と関連が深いホルモンである、インシュリンの微量な検出ができました。

学生へのメッセージ

マイクロマシーニング設備は、シリコンのプロセス装置が完備しているクリーンルームがいつでも自由に使え、本分野で日本の最高レベルです。走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡やレーザドップラー速度計等で、作ったデバイスの動きも調べられます。バイオ応用に必要な、バイオアッセイ室や蛍光顕微鏡なども揃っています。新しいアイディアを実際のマイクロマシンとして実現し、試験できるまでの時間が、極めて短くできるように工夫して、進歩の速いこの分野で、いつも先頭にいられるようがんばっています。この他、マイクロマシンの設計や解析用の計算通信環境も整っています。国際的な評価も高く、フランスから共同研究員を5人も受け入れていたり、パリに出張所があったり、留学や国際会議の出席のチャンスも多いので、楽しく研究して世界に雄飛したい方は是非どうぞ。

図1:電子顕微鏡で実時間観測したシリコンナノ接合のせん断破壊の過程
図2:キネシンの力で動く、蛍光染色した微小管
図3:DNA分子を捕えるMEMSピンセット
図4:気液界面で振動するカンチレバー型バイオセンサ