EEIS 東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻

小野 亮 教授

本郷キャンパス

環境・エネルギー
プラズマ
電力工学・電力変換・電気機器
計測工学

プラズマ応用技術の開発〜医療、表面工学から航空宇宙工学応用まで〜

プラズマを用いた医療、表面処理、エネルギー、航空宇宙工学応用技術の開発および、プラズマ分光計測やシミュレーションの基礎研究を行っています。

研究分野1

プラズマの分光計測とシミュレーション

気体中の高電界で加速された電子が原子や分子に衝突すると、電離が生じプラズマ(= 電離気体)が生成されます。原子や分子の励起や解離も生じ、様々な励起種や、OHやOなどの反応性の高い中性粒子(ラジカル)も生成されます。このように生成されたプラズマは反応性が高く、様々な応用技術に利用されています。これらプラズマ応用技術の開発には、プラズマそのものを調べる基礎研究が重要です。我々はプラズマ技術の中核となる様々な活性種を、レーザー分光計測する研究に取り組んでいます。活性種は反応が速いため寿命が1us~1msと極めて短く、高度なレーザー計測が必要です。この他に、我々はプラズマのシミュレーションも開発しており、実験結果を再現できるシミュレーションの開発を目指しています。
研究分野2

プラズマによるがんの免疫治療

我々の研究室では、プラズマをがんの免疫治療に使える可能性を世界で初めて示しました。スライドの図のようにプラズマを2つの腫瘍の片方に照射すると、もう片方の腫瘍にも抗腫瘍効果が現れ、この効果は長い期間持続することを示しました。そして、プラズマ照射でマウスのがんに対する免疫が向上している可能性を示しました。放射線治療などではすでに知られた現象ですが、プラズマでも同じようなことが起きている可能性があります。このプラズマ誘起した抗腫瘍免疫で、腫瘍の手術切除後の再発抑制にも効果がある可能性を示しています。がんの免疫療法に使われる免疫チェックポイント阻害剤(2018年ノーベル医学生理学賞)との併用実験も行っており、相乗効果を得るべく研究を進めています。原理解明に向けて、プラズマの活性種計測や、プラズマ照射した腫瘍の病理解析等も行っています。電気電子工学の技術を利用した、がんの新しい治療法の研究です。
研究分野3

プラズマ気流制御応用

空気中でプラズマを発生させると、イオンや電子といった電荷が電界により加速され空気の流れが生じます。このプラズマが作る流れを利用して、航空機や車、電車、ドローンなどといった移動体全般の空気力学的性能を改善するための研究を行っています。空気力学的性能とは、移動体に発生する空気抵抗や揚力のことを指し、これらを改善することで今までより安全で燃費が良く、高速に移動できる機器を開発できる可能性があります。特にプラズマを用いた方法は、従来の手法に比べて時間応答性がけた違いに良いため、従来では不可能であった超高速な制御を実現できる可能性があります。またプラズマは低圧環境下でも有効に動作することから、成層圏プラットホームの機体制御や、火星探査機の制御といった応用も視野に入れています。
研究分野4

火星環境下におけるCO2の分解と酸素生成

将来の火星探査を見据えた火星大気環境下での酸素生成と炭化水素燃料生成に関する研究を行っています。人類を火星に送り込むために、生命の維持に必要な酸素を地球から火星まで運ぶことは困難であるため、現地の資源を利用するISRU(In-Situ Resource Utilization)を達成する必要があります。火星環境は低温度(マイナス70度程度)かつ低圧力(0.007 気圧程度)であるため、地球上とは異なるメカニズムでCO2の分解が進行することが予想されます。本研究室では長年プラズマを用いたガス分解技術の開発を行ってきた経緯があり、それらを総動員して火星環境で生じる特異なCO2分解メカニズムを解明し、機器開発へとつながる研究を進めています。
研究分野5

活性種表面反応と表面処理

プラズマはポリマー、半導体、金属、液体、生体などの表面処理に使われます。これらは活性種の表面反応が重要ですが、活性種の種別ごとの表面反応を測定するのは容易ではありません。プラズマでは数10から100種類の活性種が生成されるため、各活性種の表面反応を切り分けて測定することができないためです。本研究室ではOHやOなどの活性種を種別に選択的に試料表面に照射する手法を開発し、表面分析と合わせて様々な活性種の表面反応を測定しています。そして、この計測結果と量子化学計算や分子動力学計算結果をもとに、活性種の表面反応モデルの構築も行っています。
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