EEIS 東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻

大崎 博之 教授

柏キャンパス

環境・エネルギー
電力工学・電力変換・電気機器
電子・電気材料工学
エネルギー
航空宇宙工学

次世代エネルギー機器のための超電導技術

電気エネルギーの効率的利用と先進的電磁界応用システムの実現を目指して,超電導体や高性能永久磁石等の先端材料を活用し,優れた特性を有する電気エネルギー機器およびシステムの研究を進めています。

研究分野1

航空旅客機の電動化:超電導技術の適用可能性

世界中で取り組まれているCO2排出量削減は,航空旅客機においてもたいへん重要な課題になっている。IATA(国際航空運送協会)は,2050年までにCO2排出量を2005年レベルの50%にするというたいへんチャレンジングな目標を掲げている。それを達成するキーテクノロジーとして,代替航空燃料の使用に加えて,推進系の電動化が考えられている。しかし,150~180座席程度の旅客機では,最大出力40MW程度が必要で,機器・システムには大出力と軽量化の両方が強く要求され,超電導技術の適用が期待されている。当研究室では,高出力密度の推進用超電導モータの電磁設計,水素タービン発電から大電力伝送系,推進用モータまでの推進システムの検討を進めている。液体水素を燃料と冷媒の両方にもちいることを想定し,MgB2超電導線材を電機子巻線に,RE系高温超電導線材を界磁巻線に適用した回転機の最適設計,特性解析,システム検討などを行っている。
研究分野2

超電導コイルの交流損失評価

超電導体は,直流電流の通電や直流磁界の印加に対しては電気抵抗ゼロであるが,交流電流や交流磁界に対しては交流損失が発生する。交流機器において超電導体を使用するためには,この交流損失を低減することが必要である。当研究室では,高出力密度の同期機を実現するために,界磁巻線だけでなく,電機子巻線にも超電導線を適用した全超電導機の研究を行っている。電機子巻線には回転磁界が印加されるとともに,交流電流通電による自己磁界が重畳される。そのような条件下での超電導コイルの交流損失を評価することは,全超電導回転機の設計には必要である。そこで,有限要素法による3次元非線形電磁界解析に加えて,交流損失測定装置を構築し,損失の実測と数値解析結果との比較を進めている。測定装置は,20 K程度の冷却された超電導コイルが設置されたクライオスタット,回転磁界を印加するハルバッハ配列の永久磁石回転子,それを回転させるモータドライブ装置等から構成される。
研究分野3

宇宙の起源の解明へ:超電導技術による超低損失軸受の実現へ

ビッグバンで生成された宇宙最古の光である宇宙マイクロ波背景放射の偏光観測を行うことにより,宇宙の起源の解明を進めようというLiteBIRDプロジェクトに参加し,その観測のための衛星に搭載する偏光変調器に適用する「超電導技術による超低損失軸受」の研究開発を行っている。4 K程度の極低温環境で,損失をµWオーダに抑制するというシステム側からの難易度の高い要求を満足させるために,RE系バルク超電導体と永久磁石,強磁性体磁路等で構成される超電導磁気軸受の設計と,そこでの電磁現象の詳細な数値シミュレーション,及び実験的検証を行っている。わずかな磁界分布の乱れが損失の原因となるが,衛星搭載という現実的な条件下で,いかにこの低損失を達成するか,Kavli IPMU(カブリ数物連携宇宙研究機構)の研究チームと協力して研究を進めている。全体プロジェクトには,JAXAや国内の大学,研究機関,世界中の研究者も参加している。
研究分野4

電磁界数値解析・連成解析・超電導体モデリング

超電気機器の特性を把握する上で,超電導体の電磁現象を詳細に解析することは重要である。例えば,超電導コイルの電磁現象を明らかにしようとすると,電磁界と電気回路,熱伝導場,さらに対象によっては構造も含めて,連成解析を行うことになる。当研究室では,非線形過渡現象を解析するプログラムを開発し,あるいは有限要素法ソフトウエアやMATLABなどの解析ツールを利用して数値解析を進めている。実際の超電導体には特性のバラツキや不均一性,温度分布などもあり,それらを反映したモデリングをすることも重要である。また,例えば,超電導発電システムの数値解析を行う場合,超電導線材はµmオーダの厚さの超電導レイヤを持ち,超電導線材を用いた巻線を有する発電機はmオーダの大きさであり,さらに電力変換器や変電機器を通じて電力ネットワークにつながることになる。システム全体は,マルチスケール・マルチフィジクスのシステム連成解析になる。
研究分野5

再生可能エネルギー利用・次世代鉄道システムに関わる超電導技術

超電導体の大電流通電の特長を活かした機器が超電導ケーブルであり,数千Aを超える大電流を低損失に輸送可能である。また,電力システムで短絡事故などが起きた場合に事故電流を瞬時に低減する超電導限流器は,柔軟で強靱な電力システムの構築や機器設計条件の緩和などに寄与する。当研究室では,超電導ケーブルを直流電気鉄道のき電系へ適用することをこれまで研究し,変電所間を超電導ケーブルで接続することによる負荷分担の平準化効果や超電導ケーブルの冷却特性の数値解析など行った。現在は,電動航空機の電力伝送系への超電導ケーブル適用を検討している。電動航空機では,超電導ケーブルの大電流通電能力に加えて,軽量であることが大きなメリットである。さらに,超電導コイルとしての応用である磁気浮上鉄道(超電導リニア)や大型風力発電機等の研究にもこれまで取り組んで来た。
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