小林 正治/KOBAYASHI Masaharu

小林 正治 准教授

【研究分野】
ナノ物理・デバイス分野
【研究領域】
集積ナノエレクトロニクス
【研究室URL】
http://vlsi.iis.u-tokyo.ac.jp/contents/kobayashi/index.html

研究内容

現在の情報化社会を支えているサーバや私達の生活を便利にしているスマートフォンの心臓部分は非常に高機能な集積回路システムで構成されています。この集積回路の最小単位は、シリコン基板に極微細加工技術を駆使して形成されるスイッチング素子、トランジスタです。トランジスタの寸法は今現在20ナノメートルを切るところまで来ています。これまではひたすらトランジスタの微細化によって高性能化をはかることが重要でしたが、最近の新しいアプリケーション、例えばモノのインターネット(Internet-of-Things)では超低消費電力化がより重要となっていきています。また人工知能ではこれまでのフォンノイマン型コンピュータアーキテクチャでは効率が悪く、新しいハードウェアアーキテクチャが望まれています。これらの次世代コンピューティングを実現させるためには従来のシリコン集積回路システムの改善では難しく、非連続的な革新的技術が必要となります。

小林正治研究室では平本俊郎教授・平本研究室と密接に連携して、シリコン集積デバイスに新機能材料・新動作原理によるナノエレクトロニクスを融和させることで、次世代コンピューティングへ向けた電子デバイスのブレイクスルーを狙っています。現在注力している研究テーマは①負性容量を用いた超急峻電流立ち上がりトランジスタ、②不揮発性メモリを用いたノーマリーオフメモリ技術、③不揮発性メモリによる人工脳型(ニューロモルフィック)コンピューティング、です。

負性容量を用いた超急峻電流立ち上がりトランジスタ

シリコン集積回路、ひいてはシリコントランジスタの消費電力を抑えるためには電源電圧を下げることが最も有効です。しかし単純に電源電圧を下げるだけでは、今度は駆動電流が落ちるため動作速度が遅くなってしまいます。このトレードオフを解消するためには図1に示すように電流がより低い電圧で駆動される必要があります。この立ち上がり係数には60mV/桁という物理限界があります。この物理限界を打破する可能性を秘めているのがトランジスタのゲート絶縁膜に新材料強誘電性薄膜を導入してその負性容量を用いたトランジスタです。私達はデバイスと材料の最適設計により、図2に示すように60mV/桁の物理限界を大きく超えることを示し、0.2Vという極めて低い電源電圧でもエネルギー効率よく動作することを示しました。現在、負性容量トランジスタの性能向上を追求する研究を進めています。

不揮発性メモリを用いたノーマリーオフメモリ技術

スイッチとしてのトランジスタと同様に重要なのが記憶素子・メモリとしてのトランジスタです。現在の高密度メモリには例外なくシリコントランジスタが用いられています。特にSRAMと呼ばれるメモリはCPU上に必ず集積されています。SRAMは高速で、電源が与えられている限り常に情報を保持できるのですが、図3に示すようにIoTのような超低消費電力アプリケーションではSRAMの待機時のリーク電流が消費電力を決めてしまい問題となっています。私達は現在の集積デバイスプロセスと親和性の高い強誘電性薄膜を用い、待機時リーク電流がゼロまたは極めて低いメモリに関する研究を行っています。研究室で開発した図4に示すような強誘電性は10ナノメートル未満の極めて薄いにもかかわらず、自発分極の向きによって電圧をかけなくても情報を保持することができます。この不揮発性を用いて、一つのトランジスタでもメモリとなるFeFETや、高速でかつ電源を落としても情報を保持し続けるノーマリーオフSRAMの検討を行っています。

不揮発性メモリを用いた人工脳型(ニューロモルフィック)コンピューティング

ディープラーニングをはじめとして大変な盛り上がりを見せる人工知能ですが、現在はそのアルゴリズムを従来のコンピュータを用いて実装しているのがメインです。この方式は実装しやすい反面、非常に大きな電力を消費します。それに対して、実際の脳の仕組みを模倣したコンピュータをつくるという人工知能の方向性があります。ヒトの脳はエネルギー効率が高く、自己学習・連想記憶などの優れた機能をもつ究極のコンピュータといえます。近い将来このような人工脳がスマートフォンに搭載されているかもしれません。しかしながら脳は現在のコンピュータとは全く異なる原理で情報処理をしています。その情報処理の要となるのがニューロンとシナプスで、特にシナプスの可塑性やスパイクタイミング依存性などが重要な働きをしています。こういったシナプスの特性は実は不揮発性メモリの特性と非常によく似ており、不揮発性メモリと集積回路を用いて人工脳型コンピュータを実現できる可能性があります。私達は集積デバイスプロセスと親和性の高い不揮発性メモリを用いて、高密度集積可能な人工脳型コンピュータの実現に向けた取り組みを始めています。

学生へのメッセージ

冒頭に述べたように、今、集積エレクトロニクス分野は大きな変化の時代を迎えています。これまでの微細化技術一辺倒ではなく、革新的なデバイス技術の研究開発が必要とされています。そのためにはしっかりとした基礎力があり、0から1を生み出せる人材が必要です。小林研究室ではそのような人材を育成するために平本研究室と密接に連携し、最先端の研究活動を通じて、学生の自主性を尊重しながら独創力を磨く教育活動を行っています。また、小林准教授・平本教授ともに企業出身者であるため、産業界へのインパクトを常に意識した考え方に触れることができます。エレクトロニクス分野で社会に貢献したい!と秘めた思いを持つ学生さんを歓迎します。

図1:急峻電流立ち上がりトランジスタのコンセプト
図2:負性容量トランジスタの模式図と実際の低電圧動作特性
図3:スイッチング頻度に対するMCUの消費電力
図4:研究室で開発した9nmの強誘電性ナノ薄膜の特性